ねるまで昼

おいしいクッキーだけ

生体模写

細い光が部屋に落ちてきて目が覚めた。ベッドの上には私の部品という部品が散らばっている。指、そこからこぼれ落ちた指輪、耳につけていた石、足の爪。それらをひとつひとつ拾い集めないと、きょうの朝は始まらない。

 

昨晩なにがあったのか、わたしの頭は覚えていないが、身体が全部覚えている。布を掴んでいたことを覚えている、指輪がベッドのフレームに当たったときの音を耳は覚えていて、石も指輪も外れた瞬間のことを覚えている。取り付けるたびに、それらをすべて思い出すことになる。叩く手の方が痛いなんていうのは嘘だ。いつだって傷が残るのはその手が振り下ろされた先に決まっている。いちどだってお前の日常がその手のせいで崩れたことがあったか、その手がお前の日常をつくっているのではなかったか。などということは、こうして朝、からだが自由になるまで考えることができない。日が落ちているうちはただ、うつ伏せになって、または顔を背けて、必死にそれに耐えるだけになる。噛みしめすぎた歯にはヒビが入っている。

 

わたしは置き物になる。痛みはもうわからなくなってしまった。静かに、でも確かに、その力が顔に腕に加わるとき、腹の中が熱くなるような気がする。そのときだけ、ひとのやわらかい部分に触れているような気になれる。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、私は世界に触れられる。そのためなら、あざのひとつやふたつは我慢しなければいけない、ような気がする。