ねるまで昼

おいしいクッキーだけ

透明

短いスカートは高校時代に一生分はいた。涙は一年間で数年分を使い切った。じゃあこれはどれくらいで終わりが見えるんだろう。あの人なら答えを知っている気がした。

チョコレートパフェをつついているときだけは自分を忘れられる。ベタベタに甘いしマーブル模様のアイスは綺麗だし、グラスを通して見る君はぼやけている。目が合うと息が止まるので、眺めているだけでいい。嘘。わたしを見ていると思った瞬間に自分のことを思い出してしまうから、見ていたいというだけだ。

「ね、やっぱ言う通りにしてよかったでしょ」

得意げな顔をする君は、いつもわたしよりはやく食べ進める。どんどん層が崩れていく君のパフェは、ついに細いスプーンがいちばん下のフルーツソースに届くか、というところまで混ざっていて、あまり綺麗じゃない。混ざらないほうがいいと思う。混ざったらわからなくなってしまうから、もとの色とか、味とか、形も。

「そうだけど。決めたのはわたしだから」

すぐ言い負けるのはわたしの良くないところだ。君のすごいところとも言えるかもしれない。

「絶対うまくいくって思ったんだよね、よかったよ」

「ありがとう」

気持ちのこもってない言葉はあまりにも嘘っぽくて悲しくなる。ごめんね。そう、わたしが言いたいのはありがとうじゃなくてごめんねだった。次の言葉がすぐ出てこない。

「もう会わないほうがいいよ」

ひとりごとみたいに言った君は、わたしのグラスを注視する。たいして食べないうちに溶け出したアイスがグラスを伝って落ちる。指に触れる。べたついた指を水の入ったコップにあてる。冷たさがこの惨めさをほんの少しだけ軽くしてくれる、と思って縋る。自分の言葉が誰かを規定したと思い込むひとは、厄介だ。そこにあるのはわたしのことを真剣に考えてくれる優しさと正しさで、そんなものの前ではわたしのつまらない気持ちなんて意味がなくなってしまうから。ちゃんと言葉を声にしても、震えてうまく伝わらない。後ろめたいからなのかもしれない、本当は。

「わかってるから」

きっとまた繰り返してしまう。同じところに戻って同じことをしてしまう。君は今度こそわたしに愛想をつかすかもしれない。助けてあげるって手を差し伸べてくれなくなるかもしれない。呆れられてしまうな、という確信がある。でも、やめられない、他の何にも代えられないことがあるんだから。君にそう言ったらどんな顔をするだろうか。案外あっさり理解してくれるかもしれない。でも怖くて、このままでいたくて、痛くて、言えない。

「それならよかった。今度こそあたらしく、うまくやっていけるといいね」

なかば液体になってしまったチョコレートとバニラアイスを混ぜる。混ざる。色が同じになって、わからなくなる。わたしを知って、それを大切にする君を知ってしまったら、もうわけることができない。なら早く、戻りたくなる地獄を忘れたい。忘れさせてほしい。また嘘をついてしまう。わたしがわたしのままならこんな気持ちにならなくて済んだのに。混ざったら綺麗ではいられないことを君は知らない。あの人ならたぶん、知っていると思う。